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メトロン星人東京をゆく【3】

前回までのあらすじ
 『とんがったとこ』は、予想通り、たいしてとんがっていなかった。


一之江駅までの戻り道。
『とんがったとこ』まではちょっと駅から遠かったのだが、同じ距離を歩いているはずなのに帰りとなると余計に遠く感じてしまうのは気のせいだろうか。
眩しい5月の日射しが照りつける中をだらだらと歩いていると、長男くんがこんなことを言う。

長男「いやー、この靴履いてきて正解でしたわー」

どうやら長男くん、今回のツアーのためにわざわざ新しい靴を買ってきたらしいのだ。
彼は、今回の企画が「東京駅に着くなりいきなり誰かの家に行って、2日間ずっと寝ずに雀卓を囲む」なんていうインドアなものである可能性も考えなくはなかったそうだが、やはりこのメンツでそれはないだろうと思っていたのだろう。
そして、その考えは正しい。
実際、本当にさんざんあちこちに連れ回すつもりなのだから。


さて、次の目的地を目指し、午後2時半過ぎに一之江駅を出発した我々。
30分経って、ようやく1回目の乗り換えポイント、住吉駅に到着する。

次男「もう3時だ! 早ぇ!」
吉田「とんがってただけだぞ?」

そう、この東京メトロの旅、気づけばまだ1路線しか"制覇"していないのだ。それでも時刻はもう3時。初日に、もし日付が変わるギリギリまでがんばるにしても、あと9時間しかないのである。
移動と観光、それと食事。これを全部片づけるとなると、1路線あたり2時間ぐらいかかってしまうわけだが、そんなペースではまずい。せめて1日目は6つぐらい片付けておかないと、翌日までに全制覇できなくなってしまうということに気がついた。

かといって時間に急き立てられることもなく、乗り換えの電車を待つ5人。恐ろしいほどマイペースである。

ということで、次に我々が向かう先は、

Metron11

『M-15』。丸の内線の霞ヶ関駅である。
一之江駅からは、ここ住吉まで都営新宿線に乗った後、そこから半蔵門線に乗り換えて大手町へ、そしてさらに丸ノ内線へと乗り継がないと着けないのだ。そんなにたいした距離ではないはずなのだが、乗り換えがまためんどくさい。そして、それが我々の時間と体力をじわじわと奪っていくのである。

Metromap02

ときどき、大阪や名古屋の地下鉄がまっすぐ走っていてわかりやすいなぁ、とうらやましく思うことがあるのだが、東京の地下鉄というのは、ちょっとうねうねしていて一見わかりづらい造りをしている。実際、路線図を見ると、何本もの地下鉄が皇居の周辺部をぐるっと取り囲むように走っているのがよくわかる。それも「皇居の下は通ってはいけない」というルールがあるせいらしい、というのは有名な話である。
その話にも諸説あって、

「そもそも、皇室の私有地を通すのはまずい」
「東京の地下鉄はかつての市電の路線を元に経路を決めた。当然、皇居を通り抜ける市電などなく、そのため皇居の地下を通る地下鉄もない」
「皇居の地下に穴を空けると真下から爆弾か何かで狙われるので、テロ対策のために穴を掘らせない」

というまともな説もあれば、

「皇居の下には実は巨大な地下核シェルターを兼ねた秘密基地があり、地下鉄が通過できる場所がない」
「中国から盗まれた北京原人の骨が隠されているから地下は掘れない」
「旧陸軍の膨大な弾薬が埋蔵されている」
「風水的に地下鉄は『陰』の気脈だから、皇居の地下を通すと天皇家に不調をもたらすのでダメ」
「実は六本木や市ヶ谷につながる地下通路がある」
「いやそれは奥多摩まで続いている」

なんていう都市伝説のような説もあるらしい。つくづく、人間というのは自分の手が届かないところに対する想像力に長けた生き物だなぁ、と思ってしまう。


結局、霞ヶ関に着いたのは3時15分であった。
さすが日本の中央集権の象徴となる駅だ。黄色い案内板には官庁の名前がびっしり書かれている。

Metron12

だが、この日は5月3日、憲法記念日。紛うことなく国民の祝日である。
当然、ゴールデンウイーク真っ只中に霞ヶ関近辺で仕事している人がいるわけがない。普段は国家公務員さん達でごった返しているであろうはずの駅はひどく閑散としていて、通る人もまばら。店もどれもこれも閉まっていて、なんだかものすごく寂しい雰囲気であった。


ところで、ここ霞ヶ関の観光スポットであるが、まぁ近いしとりあえず国会議事堂は見ておこうよ、ということになった。自分にとっては、小学校の社会科見学以来だ。
ただ、国会議事堂と官庁街だけでは、本当に社会科見学となんら変わらなくなってしまう。そこで、他に何かないかと思ってじっと地図を見ていると、『日本水準原点』というものを発見した。
人は、「原点」とか「中心」とか「元祖」とか、英訳したときに必ず「The」がつくような感じの、そういった言葉にはものすごく弱い。言い換えれば、無条件でそそられてしまうということだ。
そして、この5人も、例外ではなかった。

階段を上がって地上に出て、「人がいないねぇ」「静かだねぇ」などと言いながら、のんびり外務省と国土交通省の間、霞ヶ関坂を歩く。
しかし、みんなまったりしていたのだが、なぜか長男くん一人だけがやたらとテンションが高い。

長男「ボク、もうおのぼりさん状態ですわ!」

確かに、大阪にはここまで密集して巨大な官庁街というのがないせいなのか。その雰囲気のどの辺が彼を触発するのかよくわからないが、回りのビルやらなにやらがどんどん彼のスイッチを入れていくようである。

Metron13

霞ヶ関坂を登り終わり、国土交通省の前を通過すると…

Metron14

長男「すげーすげー! 国土交通省の看板! あれ見たことありますわ!」
吉田「あの役人とかいろんな人が出てくるヤツ?」
長男「そーですそーです! どんどんテンション上がってきますね!」

皇居が見える大きな交差点に差しかかると…

Metron15

長男「皇居の周りをジョギングする理由がよくわかりましたわ!」
   これは広くて気持ちいいですもん!」

いつも思うのだが、彼のリアクションはその場にうれしいと思ったであろう感情をストレートに表していて、本当に素晴らしい。ここまで素直に喜んでくれると、いくらくじを引いてたまたま来たところとはいえ、連れてきた甲斐があったというもんだ。


目的の『日本水準原点』を探して国会議事堂の近くにある公園のような敷地(どうも、「国会前庭洋式庭園」という名前だったらしい)に入ると、入口からすぐのところに、膝の高さ程度にも満たない石碑のようなものを見つけた。
『水準点』と、書いてある。

Metron16


全員「えぇー、コレが…!?」


…どうにも、しょぼい。
誰か悪意を持った人が夜中に小一時間でもかけてつるはしとスコップで掘り返したら簡単に持っていってしまえそうなサイズだ。
でも、『水準点』と書いてあるのだ。
地図には大きな字でしっかりと書かれていたものの実態がまさかこんなものであろうとは、なんだかがっかりである。

これが現実というものなのかと思い、仕方なくその『水準点』の写真を撮っていると、いつの間にそんな奥の方まで行っていたのだろうか。遠くの方から次男くんが全力で走ってきた。
こう、叫びながら。

次男「気をつけろー! その水準はニセモノだー!」
全員「なにぃ───!!!」

どうも、そのニセ水準からちょっと上のこんもりと丘状になったところに、本物の『日本水準原点』があるらしいのだ。
我々は、さっきまで騒いでいたニセ水準はそっちのけで、大急ぎで丘を駆け上がった。

Metron17

本物はやっぱりというか、明治24年5月から設置されているというだけあって、さすがに立派である。実際にこの建物が明治24年からあるかどうかはまた別の話だろうが。でも、日本の標高を決める基準点たるもの、やはりこうでなくてはならない。
…それにしても、次男くんが気がつかなかったら、ニセ水準を本物と信じ込んだまま終わっていたんだろうかと考えると、ちょっと恐ろしい気がする。

危うくトラップに引っかかりそうになったが、無事『日本水準原点』を見たということで、とりあえず観光は目的達成、ということになった。

ここで問題なのは、もうひとつのルール「必ず食事をする」というヤツだ。
振り返ってみると、この場所に辿り着くまでにレストランや喫茶店はおろか、コンビニのコの字すら見当たらなかった。つまり、絶望的に食べるものを売っているところがないのだ。
そういう場合は、やむを得ない。早くも2駅目にして"非常手段"の出番である。
買い置きしていた「ずんだ団子」を食べるほかない、というわけだ。

Metron18

ちょっと生あたたかくなった団子を頬張る5人。
またもや自販機すら近くになかったので、やたらと喉が渇く。
勢いでルールをひとつ追加してはみたものの、いざ始めてみてこういうアクシデントがあると、毎回毎回なんかしらんを食べながら全路線を制覇していくっていうのは、やっぱりいくらなんでも無理があるんじゃないだろうか。そう考えながら、すぐ側にそびえ立つ、三権分立を象徴しているという時計塔をぼんやり眺めていた。

Metron19


さて、吉田氏も「よう、今日ちょっとギジってかねーか?」と言うことだし、ちょっとだけ国会議事堂へ。メトロンさんにも、ちょいと国会議事堂を狙ってもらうことにした。

Metron20

でも、メインはやはり『日本水準原点』だったということで、何枚か写真を撮るだけで国会議事堂観光はあっさりとおしまい。
ということで、残るは『儀式』である。


全員「これでー、丸ノ内線はー、制ー覇ー!!


気がつけば、時刻はもう4時。いい加減とっととくじを引いて、早いとこ次に行ってしまわないとさすがに本当にまずい時間なのだ。
あまり記憶が定かではないが、このときは確か、次男くんが路線を、長男くんが番号を引いたんじゃなかったかと思う。
その結果は…

Metron21

『Z-01』。
半蔵門線の『渋谷』駅、と出た。

次男「渋谷ぁ!?」
高倉「渋谷かー…」
たい「渋谷ねぇ… どこ行きゃいいんだ!?」

地下鉄の駅はたくさんあれど、まさか、ど真ん中直球で5人全員がよく知っているウルトラメジャーな駅を引いてくるとはそうそう予想はしていなかったので、一同思わず面食らってしまった。
あわてて必死で渋谷の観光スポットを考えたものの、ハチ公前に行くのも、『電力館』に行くのも、『たばこと塩の博物館』に行くのも、どれもいまひとつ冴えない。

これは困った…と思っていたその矢先。
何か、ひらめいたのだろうか。吉田氏が突然、「そうだ!」と叫んだ。


つづく。

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メトロン星人東京をゆく【2】

前回までのあらすじ
 今年は東京の地下鉄をくじ引きで回ることになってしまった一行。今年最初の目的地は、都営新宿線の『一之江』駅。果たして、そこで何が5人を待ち受けるのか。


都営新宿線というのは、新宿を基点にして、東京の中心部をずっと東に抜けてそのまま江戸川を越え、千葉県の本八幡に至る路線である。下町というよりは、どちらかというと東京湾の埋立地に近いエリアを走る電車のため、千葉に近づけば近づくほど普通の住宅街となっていく。

Metron04

次男くんは今回くじを引くにあたって「今回はいい引きするよー、ゴール右隅あたりにシュートばんばん決めるよー」なんて言っていたが、このこの初っ端のくじ『一之江』というところはゴールではなくて東京の右隅である。そして、「隅」なだけにやっぱり住宅街であって、全然観光スポットも何もありゃしないのだ。

だが、本当に何もないのかなんて、実際に足を運んで、自分のこの目で確かめてみないとわからないのも事実だ。そう考えを改め、気を取り直すことにした5人。東京駅からしばらく歩いて『日本橋』駅から都営浅草線に乗り、『東日本橋』駅から都営新宿線の『馬喰横山』駅へ向かい、そこから『一之江』を目指す、というルートを辿ることにした。

Metromap01


さて、ここで時間をちょっと前に戻して、前回軽くしか触れなかった「デパ地下で団子を買った」という話にフォーカスを置くことにする。

実は、この企画の1ヶ月ほど前、吉田氏が次男くんに対して「東京でどんなことして遊びたい?」という質問をメールで投げかけていたのであるが、それに対する次男くんの返事は以下のような内容だった。

- - - - - - - - 8< キ リ ト リ セ ン - - - - - - - -
 せっかく集まるんで、みんなで競いあうような遊びもしたいねぇ
 東京VS大阪でいろんな遊びやるもヨシ

 観光としては、東京らしいものを食べてみたいなぁ
 これまであまり名物には縁がなかったんで(汗
- - - - - - - - 8< キ リ ト リ セ ン - - - - - - - -

我々東京組は、考えた。
去年はひたすらくじで引いた行き先に翻弄され、大阪兄弟は東京みやげを買う時間すら満足に与えてもらえなかったという事実がある。だから、せっかく新幹線代を出してわざわざ東京くんだりまで出てきている彼らのために、次男くんの希望通り、今回は東京名物をみんなで食べる時間を設けようというわけだ。たぶんきっと、どこか途中で東京名物の食べられる駅に下車できるだろうから、そこで1回や2回うまいものを食べさせてあげることができるだろう。最悪、そういう駅を引かなくても、どこか近いところに途中下車してもいいと言う腹づもりでいた。

でも、みんなが集合した直後のこと。
「まずはデパ地下に行くぞ」と言い出したのは高倉仮面氏だったわけだが、なんだか妙にそれが強引なのだ。いいから、とにかくデパ地下に行って東京名物買いやがれこの野郎!というぐらいの無理矢理っぷりだ。
おかしい。いくらなんでも不自然である。事前に企画を練っていた段階で「最初にデパ地下に行く」なんていう予定は立てなかったはずなのに。
高倉仮面氏以外の全員が狐につままれたような顔をしている中、彼はどんどん先陣を切ってデパ地下へと向かっていく。
どうやらこの男、何か企んでいるらしい。この時点でわかったことは、それだけだった。

デパ地下に着くと、さすがに東京駅なだけあって、東京ばな奈や焼栗屋の東京メロンパンとらやの羊羹花園万頭など、いろいろな東京名物が所狭しと陳列されている。しかし、どれもこれも、さすがに東京に住んでいても食べたことがあるものばかりで、どうも食指が動かない。
と、そんな中、我々の目にすっと飛び込んできたのが「ふるやの古賀音(こがね)だんご」である。
実際、それはうまそうだった。幸いにして誰も食べたことがなさそうだったので、その場でふるやの団子を買うことに決定。何種類かある中で、やはりこの言葉には弱いのか「期間限定」という札書きのあるずんだ団子を選び、購入したのである。

Metron05


またここで時間を戻そう。東京駅からまっすぐ延びる大通りを歩き、日本橋駅に向かっていたときのことだ。誰が言い出したのか忘れたが、「なんで団子を買ったんだ?」という話になった。
そこで、高倉仮面氏が、熱弁をふるう。前回は大阪兄弟に満足に東京名物を食べさせてあげられなかったのは、さすがにちょっと申し訳ないことをしたと。だから、みんなで東京名物を食べるためにデパ地下に行ったのだと。
それには、大阪兄弟2人も、吉田氏も、僕も納得した。もっともな道理だったからだ。

しかし、我々は、その後の彼の言葉に耳を疑った。

高倉「全部の駅で食おう」

耳を疑うのと同時に、なぜあんなに強引にいきなりデパ地下に行ったのか、なぜわざわざ団子を買ったのか、すべてが氷解した瞬間だった。

…そうか、この男が企んでいたのはコレだったのか。
つまり、企画の段階でボツになった東京名物食い倒れの話を、彼は諦めていなかったのである。今回乗る予定の東京の地下鉄は全部で13路線あるので、1路線乗るごとに食べると2日で13食になってしまうわけだ。

次男「何も13食にしろとは言ってねーぞ!!」

即座にツッコむ次男くん。当然の反応だ。
それとは対照的に、それこそ何が起こっているのかわからないような顔をする長男くん。そして、こんなことを言う。

長男「次男さん『吉田さんと最近メールしてるんですか?』って言ったら『ううん?』って言うてたやないですか!」

どうやら長男くんは、次男くんと吉田氏との間でメールのやりとりが行われていることを全く知らなかったようである。本当の意味での被害者は、もしかしたら彼なのかもしれないと思ったが、高倉仮面氏は長男くんに情けをかけるそぶりを微塵も見せず、さらっと丸め込もうとする。

高倉「しょーがないでしょ、企画OKしちゃったんだから」
次男「誰がよ」
高倉「メトロン星人が」
次男「あー、そりゃしょうがねーや」

長男くんでなく、次男くんがあっさり丸め込まれてしまった。
そんなわけで、「メトロン星人のせいで」ということになってしまったが、高倉仮面氏の思惑通り、ここでルールを追加することになった。

① 地下鉄の路線を表すアルファベットをひとつのくじに、それぞれの路線の各駅に振ってある駅番号をもうひとつのくじにする
② くじを引いて出た駅で降りて観光をする
あと、食事もする
④ 観光したら、その路線は『制覇』とし、次のくじを引く
⑤ これを繰り返し、東京の地下鉄の全ての路線を駆使し、存分に大阪兄弟に東京観光してもらうことを目的とする

このルールがあとあと"効いてくる"ことになるわけだが、それはまたの機会にお話することにしよう。


それからああだこうだと言い合いながら、どれぐらい歩いただろうか。日本橋駅の改札は、意外と遠いところにあった。
全員で都営地下鉄・東京メトロ共通の一日券を購入し、自動改札をくぐる。程なくして、我々を目的地へ運んでくれる地下鉄がホームにすべり込んできた。

Metron06


さて、実際に一之江に向かうべく地下鉄に乗り込んだわけだが、冒頭で述べた通り、行くところが全く思い浮かばない。住宅街に行ってもしょうがないんだよなぁ…と思いながら、駅周辺の地図をぼんやりと眺めてみても、やっぱり住宅街と川とコンビニぐらいしか見当たらない。
途方にくれていると、同じく地図を眺めていた吉田氏が、突然こんなことを言い出した。

吉田「このとんがったところに行きたい!」

Metron07

まぁそりゃ、地図を見る限りはとんがっているけれども、そんなところに行っても…と思っていると、なんとそれに食いついたヤツがいる。
次男くんだった。

次男「由緒正しいとんがりかもしれないよ?」

それを聞いた吉田氏、食いついてもらってうれしくなったのか、声のトーンが明らかに一段上がった。

吉田「とんがったところからこんな島が見えるよ! この島がどんな島かはしらないけどね!」

さらに調子に乗る吉田氏。この人も、調子に乗り始めると止まらない。

吉田「一之江駅からタクシー乗って運ちゃんに『おーい、とんがったとこ行ってくれ』って言いたいねぇ」
高倉「とんがったとこ行ったらきっとアンタこう言うよ、『意外ととんがってないね』って」

結局、きっと水がバックだから写真映えするに違いないだの、今日は天気がいいから水辺は開放的で気持ちよさそうだだのという話になり、その『とんがったとこ』我々の観光スポットとすることになった。
行くところが全くないよりはマシだろう、ということである。ひどい話だが、止むを得ないのだ。他にいい観光スポットがあれば、今からでも教えていただきたいものである。

行き先が決まってからも、地下鉄の中でひたすら地図を眺め続ける「地図マニア」が3人いた。
吉田氏と大阪兄弟である。

吉田「ここここ! ここ! この細いとこ! ここ行きたい!」
長男「ここですか!」
吉田「そう!ここだよ! もしかして、そろそろ通過するんじゃないのか?」

彼らがそう言っている間に、地上に出て走り続けていた電車はその「細いとこ」あたりを通過していく。

吉田「ほらほらほら! 今の! 今の『細いとこ』じゃない!?」

『とんがったとこ』の次は『細いとこ』で興奮しっぱなしな3人。
それとは対照的に、僕の隣にでれんと座っていた高倉仮面氏は、「俺は吉田クンのそういう心理がサッパリわからん…」とボヤいていた。


一之江駅の改札を出ると、できてからあまり時間が経っていないのか、整備された感のあるきれいな広場が眼前に広がる。しかし、ぽっかり抜けるように晴れた青い空に向かって伸びていたのは、展望台でもテレビ塔でもなく、きっと雨後の竹の子のようにできたであろうたくさんのマンションであった。天気がよくて気持ちがいいのはいいが、やっぱり観光名所なんてどこにもありゃしないじゃないかという雰囲気が一同の間に漂う。

だが、吉田氏だけは妙に自信たっぷりである。
「観光の名人! 大丈夫! イッツ大舟ライディング!」なんて言い放ち、胸をドンと叩いてみせた。自ら選んだ場所(つまり『とんがったとこ』)で、お前らをたっぷり楽しませてやるよ、と言いたいようだ。
そこまで言うなら、楽しませてもらおうじゃないか。我々は、泥舟に乗ったつもりでその『とんがったとこ』へ向かうことにした。

地図を頼りに川べりを歩き、水門を通過する。
さらにしばらく歩くと、『交通公園』という看板と、モノレールの自転車版のようなものに乗ってはしゃぐ子供の姿が見えてきた。道端に停まっていたホットドッグ売りのミニバンを横目に、地図らしいものが書いてある案内板に近づくと…

Metron08

ホントにとんがっている。
どうやら、ここが我々の目的地のようである。

吉田・次男「これだ!! 『とんがったとこ』だ!!」

そう言うやいなや、その突端に向かって走っていく吉田氏と次男くん。
吉田氏は勝ち誇ったようにふんぞり返り、次男くんは両手を上に挙げて『とんがったポーズ』をしながら飛び跳ねて喜びを全身で表現している。

でも…

Metron09

予想通り、あんまりとんがってないのは、きっと気のせいじゃないと思うんだが。
ねぇ、吉田さん?


さて、目的地に無事到着したので、「観光をする」というミッションは無事終了ということになる。
ということは、残るは「食べる」ミッションなのだが、この『とんがったとこ』の周辺、東京名物どころか飲食店やコンビニも、ひいては自販機すらもなさそうな雰囲気である。

さっき素通りした、ホットドッグ売りのミニバン以外は、何も。

その黄色くてやたらと派手なミニバンは、『とんがったとこ』からちょっと戻ったところにまだ停まっていた。車体には「大學堂」と書かれている。そういえば、以前神保町あたりでも同じミニバンを見かけた記憶があったが、どうやら都内を販売エリアとしてあちこちに出没するホットドッグ屋さんらしいということがわかった。
一応こちらを拠点としているのなら、きっと大阪では食べられないホットドッグなんだろう。そんな理由で、今回食べる"東京名物"は『チーズドッグ』に決定した。そして、東京駅で買ったずんだ団子は、本当に食べ物屋が何もない駅を引いたときの緊急手段として食べられるよう、しばらく食べずに取っておくことになった。
それはいくらなんでも無茶苦茶だという声が聞かれそうだが、そもそもこの企画自体が無茶苦茶なんだから、せめてそのあたりには目をつぶっておいていただきたい。

Metron10

出来たてのホットドッグを受け取って再び『とんがったとこ』に戻り、適当なことを言いながらそいつをむしゃむしゃと食う我々。

長男「けっこううまいですね!」
吉田「とんがっているからだよ!!」
長男「味にとんがりがありますね!」

その後、あまりの天気の良さに5人とも骨抜きになったのか、しばらく『とんがったとこ』で水辺をぼんやり眺めたりして、ぐだぐだとゆったりした時間を過ごした。本当は、公園にあったモノレールの自転車版のようなものに乗って「わーい」なんて言ってみたかったが、子供がいっぱい並んでいたのでさすがに断念。それだけが少し心残りであった。

それはそうと、いつまでもとんがっているわけにはいかない。
我々の本来の目的は東京の地下鉄を全路線制覇することであり、そのためにはあと12回もくじを引かないといけないのだ。
…ということは、あと12回、何かを食べないといけないのか。想像すると、ちょっと気が遠くなった。

まぁとにもかくにも、次に行くと決まったら『儀式』をやらなければいけない。
5人で円陣を組み、気合いの入ったダミ声で、こう宣言する。


全員「これでー、都営新宿線はー、制ー覇ー!!


そして、次の行き先を決めるくじ引きタイムである。
話し合いの結果、大阪兄弟がひどいくじを引いたときに毎回罵倒するのもさすがに可哀相だということで、今回からは全員の持ち回りでくじを引こうということになった。
今回、高倉仮面氏が路線を、僕が番号を引いた結果は…

Metron11

『M-15』。
路線図で確認したところ、丸ノ内線の『霞ヶ関』駅のようだ。
全員から「おぉー」という歓声のような声が漏れる。
首都圏の中枢部が目的地になるというのは、去年のツアーも含めて今までになかったことだからだ。なんだか社会科見学のような気分だが、長男くんが「国会議事堂が見れますね!」と早くも喜び気味だったので、まぁよしとすることにした。

日本の中枢・霞ヶ関は、我々に一体どんな顔を見せてくれるのだろうか。
一行は、ゆっくりと一之江駅を、そして霞ヶ関を目指して歩き始めた。
封筒をしまうのにちょっと手間取って出遅れた僕は、こっそり用意していた『はずれくじ』をそっと3枚茶封筒に入れ、みんなの後を追った。

つづく。

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