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メトロン星人東京をゆく【1】

運の悪い人は安心するがよい。
なぜなら、なおいっそうの悪運に陥る心配はないから。
                       ──オーヴィット/詩人



3月のある日だっただろうか。
いつものようにパソコンに向かって仕事をしていたら、「ヴーーン」という音が微かに聞こえた。妙に長いこと鳴っているなぁと思ったら、机の端に置いてあった自分の携帯電話のランプが点滅し、ブルブルと震えていたのである。折りたたみ式の携帯を開くと、画面に『着信 高倉仮面』という表示が出ていた。
僕は慌てて電話を取りながら、小走りでベランダに向かった。

確か、このときの会話はこんな感じじゃなかったかと記憶している。

たい「どーも、ご無沙汰してます」
高倉「今大丈夫?」
たい「大丈夫ですよ。どうしました?」
高倉「いやさ、『大阪兄弟』がこっちに来るみたいでさ」
たい「なに!! いつですかそれは?」
高倉「ゴールデンウイークだよ。それで、ぼちぼち決めなきゃと思ってな」
たい「お、それってちょうど1年前と同じ時期じゃないですか! そりゃ、やんなきゃ!」
高倉「そうだよ、やるよ?」


さて、ここで『1年前』の出来事について、簡単にご説明しておこう。

僕の友人の中に、『バカ長男』と『アホ次男』という、いかにもコテコテの大阪風なあだ名を持った連中がいる。そんな彼ら2人組、通称『大阪兄弟』とはもう数年来の付き合いになる。
その2人が、東京に遊びに来る機会があった。去年の5月3日と4日のことだ。
出迎えたのは、僕と、こちら側の共通の友人『高倉仮面』氏と『吉田ナゴヤ』氏である。
「彼らがせっかくわざわざ東京まで出てくるんだから、彼らに思う存分東京を観光してもらおう」と結託した我々3人は、彼らのために"とある企画"を用意した。

「目的地の『区』をくじ引きにして、2日間ひたすら東京23区を観光し続ける」

という、話を聞くからにとんでもなく頭の悪い企画である。
そして、頭の悪い我々は、実際にその企画を実行してしまったわけだ。まぁとにかくいろいろと常識を外していたが、1年経った今でも鮮明に記憶に残っているぐらいインパクトの強い小旅行となった。その模様は過去のエントリに詳細に書いてあるので、もしお時間があればご一読頂きたい。

で、早い話が、今年もそれっぽいことをやろうというわけなのだ。


さて、やるということ「だけ」は決まったものの、実際のところはやる企画そのものが決まらないと話にならない。ない知恵を絞っていろいろ考えてみたのだが、こいつがなかなかすんなり決まらなかった。

いちばん最初に出された案が、去年に引き続きもう1回『東京23区くじ引きツアー』をやるというものだ。くじというランダム要素があるため、去年と同じ回り方をする確率はほぼゼロに近い。でも、やはり2年続けて同じことをやるというのは新規性も何もあったものではないので、あえなくボツとなった。

それじゃあ少し工夫をしてみようということで出てきたのは、『東京23区食い倒れツアー』という案だ。くじ引きをするまでは去年と一緒なのだが、東京でしか食べられないものを行く先々で大阪兄弟に食べさせるというものである。いいアイデアだと思ったが、「2日で23食か…」という高倉仮面氏のつぶやきに恐ろしく非現実的なものを感じ、これもボツとなった。

くじを引かずに『2日で東京23区完全制覇』という話も挙がったが、綿密なルートを計画するのがめんどくさいという理由でボツ。『関東近郊秘宝館巡り』なんてのも考えたけれど、都内から遠いので、これもボツ。『横浜18区』は、横浜市中区以外はほとんど住宅街だからやめておこうという話になり、ボツ。『1都6県』はいくらなんでも金と体力を浪費しすぎて厳しいので、やっぱりボツ。

そうやって企画を挙げては片っ端からボツにしていく中で、ひとつだけ生き残った案があった。


駅ナンバリング』という言葉を聞いたことがおありかと思う。

言葉は聞いたことがなくても、字面から内容を想像するのは容易い。平成16年4月1日から東京の地下鉄で導入された、「丸ノ内線の東京駅はM-16」のような感じで路線名や駅名に記号・番号を併記してあるアレだ。東京都のホームページには、「外国人旅行者をはじめとして、誰にでもわかりやすく東京の地下鉄をご利用いただくため、地下鉄の路線名や駅名に固有のアルファベットや番号を併記」したものだという説明がある。

しかしだ。
我々は外国人旅行者ではないし、ましてや東京在住である。日本語もちゃんと理解できるし、どこまで何線に乗ってどこで乗り換えればどこに着けるのかもだいたいわかる。だから、『駅ナンバリング』なんていうものは、我々にとって全く必要のないものだという考えでいたのだ。

…『駅ナンバリング』が、くじ引きの「くじ」を作るのにうってつけのシステムである、という事実に気がつくまでは。

気づいてからが、早かった。
すぐに、以下のような企画のカタチが出来上がっていった。

① 地下鉄の路線を表すアルファベットをひとつのくじに、それぞれの路線の各駅に振ってある駅番号をもうひとつのくじにする
② くじを引いて出た駅で降りて観光をする
③ 観光したら、その路線は『制覇』とし、次のくじを引く
④ これを繰り返し、東京の地下鉄の全ての路線を駆使し、存分に大阪兄弟に東京観光してもらうことを目的とする
⑤ 大阪兄弟には、今回もやっぱり当日まで内容は秘密

いろいろ話しているうちに、去年と違って今回は観光するところのない駅が多そうだがどうしようという難題が出てきたが、「まぁなんとかなる、とにかくやっちゃえ」ということになった。

やることさえ決まれば、あとはすることといったら決まっている。
くじを作って茶色い封筒に入れ、『東京地下鉄便利ガイド』という地下鉄の駅周辺地図と周辺情報満載の本を購入して準備完了である。


そして、当日。

Metron01


待ち合わせ場所の銀の鈴に着くと、すでに吉田氏が待っていた。
「1年ぶりの銀の鈴だねぇ…」とつぶやきながら、銀色に鈍く光るその待ち合わせのシンボルを2人で眺めていると、去年の思い出が走馬燈のように頭の中に浮かんでは消えていった。
しばらくしてから高倉仮面氏が到着。そして、間もなく大阪からの新幹線が到着する時間となり、大阪兄弟の2人が銀の鈴待ち合わせ広場に姿を見せた。

5月3日、昼の12時。ようやく、全員が揃った。
久しぶりの再会に、全員の顔から思わず笑みがこぼれる。

高倉仮面氏の「まずは、なんか食うものを買いたい」といういきなりの提案で、デパ地下でずんだ団子を購入した我々は、東京駅の丸の内中央出口へと向かうことにした。そこが去年の旅のスタート地点であり、終着点だったからだ。
通路を抜けて広場に出ると、さわやかな五月晴れの青い空が広がり、赤レンガ造りの駅舎は相も変わらずその存在感と風格を漂わせていた。歩く横で駅舎をスケッチしている人たちも、なんだか気持ちがよさそうだった。

さて、いくら天気がよくて気持ちもいいとはいっても、いつまでもこの場所に留まっているわけにはいかない。だから、我々東京組は早々と口火を切ることにした。今回の企画の内容を大阪兄弟に発表する時間がやってきたのだ。
何も知らされていない彼ら2人の顔に、緊張の色が走る。

高倉「まずはだ、今回の旅には『主役』がいるんだ」

高倉仮面氏はそう言うと、おもむろにカバンの中からコイツを取り出した。


Metron02


高倉「『メトロン星人』だよ」
長男・次男「なんでだ───!!」

企画を発表されると思いきや、いきなり脈略のなさそうな『メトロン星人』のビニール人形を取り出されるとは、さすがに予想していなかっただろうと思う。すっかり虚を突かれたのか、彼らはひたすら笑うしかなかった様子である。

ここでご存じない方のためにご説明しておくと、『メトロン星人』とは、『ウルトラセブン』に登場する地球侵略を企てる宇宙人である。そんな特撮もののキャラクターが今回の企画にどう関係してくるかというと…、

つまり、こういうことなのだ。

高倉「ところでキミ達、東京には地下鉄の路線がいくつあるか知ってるか?」
長男「い、いや、知らないですよ?」
たい「全部でだいたい13コぐらいあるんだよ。都営地下鉄とか、東京メトロとか」
次男「メトロ!??」
高倉「これでもうわかったね、今回の企画は
   『メトロン星人と東京メトロでゆくメトロポリスの旅』だ!」
次男「…おい、ダジャレかよ!!」

ダジャレかよと言われてもしょうがない。
今回の企画は、そう決まってしまったのだから。


Metron03


さぁ、内容を理解してもらったら、あとは彼らに我々の行き先を決めてもらわねばならない。まずは、長男くんに乗る地下鉄の路線を、次男くんに駅番号を決めてもらうことにしよう。
僕がカバンの中から茶封筒を取り出すと、それを見た大阪兄弟は「出た!!」と叫んだ。「それ」が去年彼らをさんざん苦しめた「行き先はくじ引きで決める」ということを意味するのを瞬時に理解したようである。長男くんは逃げるように後ずさりをし始め、両手をポケットに突っ込んで体を縮こめるようにして、くじを引くのを頑なに拒む。

長男「いやだぁぁ!! いやだぁぁぁ!!!」
たい「こら! いいから引け!」

いやがる彼らの手を無理矢理茶封筒に突っ込み、1枚ずつくじを引かせたその結果は…


Metron04


『S-18』。
地下鉄の路線図でそれがどの駅にあたるかを見ると、都営新宿線の『一之江』とある。

イヤな予感がした。
自分の知る限りでは、観光名所のようなところがひとつもなさそうな駅なのだ。
あまりの微妙さに一瞬みんなの動きが止まり、「そんなところに行って何の意味があるんだ?」という空気が流れた。
そして、せきを切ったように、罵り合いが始まった。

吉田「おい、アレか? これは…もしかして、最初っからやらかしたのか?」
次男「だからそういうところに行くくじ作る方が悪いんだって!」
たい「そういう駅引く方が悪いんだろ!」

やれやれ、今年もまたくじの神様は我々を楽しませてくれそうである。
罵り合いを続けるみんなを横目に見ながら、僕は腹を据えて一呼吸置き、声を上げた。

たい「よーし、今から一之江に行くよー」

こうして、我々の『メトロン星人と東京メトロでゆくメトロポリスの旅』はスタートを切ることとなった。今年は一体何が我々を待ち受けているのかこの時点では誰も知らないまま、まだ元気な5人は一路『一之江』駅へと向かう。

つづく。

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