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東京23区くじ引きツアー【11】

今回の『テーマソング』
 つれて逃げてよ~
 ついておいでよ~
 夕ぐれの雨が降る 矢切の~渡し~
 親のこころに そむいてまでも~
 恋に生きたい 二人です~~     ───細川たかし『矢切の渡し』


東海道新幹線には、皆さんご存じの通り『新横浜』という駅がある。
ちょっと横浜からは離れているけれども、横浜みなとみらい地区や中華街へ行くには決してアクセスの悪い場所ではない。
だから、大阪兄弟が「横浜にも行ってみたい」と言い出したとき、横浜に近い区のくじを引いたらそのまんまみなとみらいや中華街に行き、おいしいものをおみやげに買ってもらい、中華料理をみんなで食べてから新横浜でお見送りというのも悪くないなぁと思っていたりしたのだ。
だが、それは、あくまでも「横浜に近い区のくじを引いたら」の話であった。


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…で、こんなの引いちゃった。

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…で、ピンクの矢印の方向に移動することになっちゃった。


そんな矢印の先っちょにある『葛飾区』。
僕は1回も映画を観たことがないんだけれども、「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又」というセリフに表れるように、映画『男はつらいよ』の寅さんの功績は『葛飾区』、いや『柴又』にとって非常に大きいようだ。浅草の仲見世のあたりでも軽くそのあたりに触れたが、全国的に知名度が上がったのは映画『男はつらいよ』シリーズのヒットからだそうで、観光客が押し寄せるようになったのは比較的最近のことのようだ。

ところが、この柴又がものすごく交通の便が悪い。『柴又帝釈天』の最寄りである柴又駅は、東京23区内なのに20分に1本しか電車が来ないという、いわゆる"陸の孤島"なのだ。よりによって、現在地の新宿からは約1時間もかかってしまう。

そこで、考えた。
どこか、柴又ほど遠くなく、さくっと行ける『葛飾区』の名所はないものか。

自分の頭の中のポンコツな検索エンジンに『葛飾区』と入力したら、しばらく時間が経ってようやく『葛飾区亀有公園前派出所』というキーワードが引っかかってきた。正式には名前は違うが、『こち亀』のモデルになった派出所があったのを思い出したのだ。地図で調べてみると、JR亀有駅前からすぐのところにあるではないか。
これは大移動しなくて済むチャンス!と思い、さりげなく提案してみることにした。

たい「JR亀有駅のすぐ近くに交番あるんで、そこで写真撮って『葛飾区』終わりにしませんかね?」

だが、これを言った相手が悪かった。
このツアーの"歩くルールブック"、高倉仮面氏である。

高倉「ダメ! 派出所は観光名所じゃないから!」
たい「いやちょっと、でも柴又は遠すぎでしょ…」
高倉「オレ達は『観光』してるんだから、観光名所行かないと意味がないでしょ!」

この男、くじ引きの瞬間はものすごくダウンしているんだが、『葛飾区』行きが決まったとなったら恐ろしいまでに切り替えが早い。もう何が何でも『柴又』に我々を連れて行くつもりらしいのだ。彼の固い意志の前には、僕の付け焼き刃の提案などはまさに"焼け石に水"状態であった。


仕方なく柴又行きの覚悟を決め、都庁方面から地下道を通りJR新宿駅に向かっている途中、ドラッグストアの前を通過する一行。
昼ごはんの食べ過ぎで苦しそうだった長男くんを気遣い、ふと足を止めたはずだったが…

高倉「長男くん、胃薬はいいの?」
たい「そうだ、胃もたれ大丈夫?」
長男「今の(クジで『葛飾区』を引いた)でどばっと胃液出てきましたわ…」
高倉「じゃあ、寄らなくてもいいか」
たい「今から柴又まで行くのに、ドリンク剤飲まなくていいんすか?」
高倉「あ、それは必要だな…」

なんと、ここで急遽目的が「ドリンク剤を飲んで栄養補給」にすり替わってしまった。
前日の『杉並区』に引き続き、またもやドラッグストアのレジに列をなす面々。このツアーで2本目のドリンク剤購入であるが、2回目にしてすでに「こんな疲れるツアーなんだから、ドリンク剤飲まないとやってられないのは当たり前」とみんなが思っているのは、正常なのかどうなのか。ともかく、フタを開けるやいなや、買ったばかりのドリンク剤をぐいっと一気に飲み干し、ちょっとだけ気合いを入れ直してから新宿駅へと向かったのであった。


しかし、これだけ過酷なツアーも2日目となると、ドリンク剤1本飲んだ程度では癒しの効果なんてものは全くない。飲んだ瞬間に「ファイトー!」「いっぱぁーつ!」などと元気が湧いてくればいいのだが、そんなのはCMだけの世界らしいということがよくわかる。少なくとも僕は、新宿から柴又の方へと向かう山手線の中だけで、確実にドリンク剤1本分以上の体力を消耗していた。まるで、燃料計の針が急速に『E』に近づいていくのがわかるようだった。

どうやら、そこまで疲れていたのは僕だけではなかったようである。
JR日暮里駅で京成線に乗り換えて柴又方面行きの電車に乗り込む頃には、5人全員の口数が極端に少なくなっていた。吉田ナゴヤ氏などは、むっつりと不機嫌そうな顔をして窓の外の景色を眺めている。
そこに、いつものように高倉仮面氏が揶揄しにかかったのだが…

高倉「怒ってるのかい? 怒ってるとしたら、それがこの企画の醍醐味と言っていいんじゃないか?」

だが、高倉仮面氏の期待とは裏腹に、吉田ナゴヤ氏の反応は薄い。本当に機嫌を損ねたのか、高倉仮面氏の発言に対して二言三言ぼやいた後、黙りこくってしまった。そのやりとりを見ていた大阪兄弟の顔にも、焦燥の色が浮かび上がってくる。ふと見上げた路線図には、隅っこの方に申し訳程度に小さな字で『横浜』と書いてある。

「だいたい、横浜に行こうとしていたのに、何でわざわざ柴又まで行かなきゃいけないんだ?」

堤防が、"疲れ"という大きな波によって決壊したかのように、抑えていたその気持ちがどどっと溢れ出てきているのがわかった。
場の空気はもはやカラカラ、一触即発の雰囲気が一行の間に漂う。
それとは裏腹に、我々を乗せた電車は荒川、中川を越え、横浜とは見事なまでに方角違いの柴又方面へ刻一刻と近づいていくのであった。


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…着いた。
新宿から約1時間、「はるばる来たぜ柴又」である。
余談だが、渥美清と千昌夫の顔がダブって思い出されるのは僕だけだろうか。他にこの気持ちがわかるという人がいたら、ぜひとも教えてほしい。

それにしても、観光地というのは人を現金にさせる効果を持っているようである。先ほどまであれほどピリピリしていた5人だが、柴又駅前にある寅さんの銅像と、その前で入れ替わり立ち替わり写真を撮っている観光客の姿を見るや否や、一気に観光モードに切り替わったのだった。
そしてそのまま、駅前から続く観光客の流れに乗って、帝釈天参道へと進んでいく一行であった。

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柴又に初めて来たという大阪兄弟の2人。
そんな彼らに、この帝釈天参道の感想を訊いてみた。

長男「いやぁー、僕、こんな雰囲気、ホンっト大好きですわあ!」
次男「いやぁー、柴又って街はホンっトに無理してますね!」

寅さん好きというのも手伝ってか、左右に建ち並ぶみやげもの屋あちこちを覗いては「おいしそうですねぇ!」という言葉を繰り返す長男くん。そんな長男くんを、まるで「観光地に来た途端脳天気だなぁコイツは」という、ある種ドライな目で見ている次男くん。同じ場所でここまで対照的な反応をするのかというぐらい、見事なまでの正反対っぷりであった。

初期の『男はつらいよ』の舞台となった『とらや』の側を通過すると、道の左側にちょっとした人だかりができていた。何かと思って近づくと、なんだか軽快で小気味のいいリズムが聞こえてくる。

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職人さんが2人、包丁とまな板を使い、飴を切りながらタカトンタカトンとリズムを刻んでいるのが見えた。『松屋の飴総本店』の『飴切り音頭』だ。
足を止め、しばらくその手さばきに見とれる一行。

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どれだけどういう修行したらここまでになるのかなぁ、やっぱりプロは衆人環境の中でもプレッシャーには負けずに失敗しないんだろうなぁ…などと考えながら見ていたら、最後に包丁を上に放り投げてキャッチするところで、右のおっちゃんが包丁を落とした。苦笑いするおっちゃん。プロといえども、やはり人の子だったようだ。なんだかちょっと微笑ましい光景であった。


そこからちょっと歩くと、もう『柴又帝釈天』である。

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それにしても、お参りしている人のこれまた少ないこと。
午前中に行った浅草寺の人混みがまるで嘘のようである。同じ観光地でもここまで実力差があるのかと思うと、少し寂しく思ったりもした。もっとも、そんな我々も、本堂の前にいながら「浅草寺でお参りしたから今日はもういいよね」などと言い放ち、結局お参りしなかったんだが。

お参りはしなくても、この5人がいくら不信心な面子だといっても、やることはやらなくてはいけない。
帝釈天の本堂をバックに、集合写真をパチリ。
そして、『儀式』だ。


全員「これでー、葛飾区はー、制ー覇ー!!


ふと時計を見ると、針は夕方の4時20分を指していた。
ちなみに、柴又駅に到着したのがちょうど夕方の4時のことである。

そう、ここまでわざわざ1時間以上もかけてはるばる移動してきたというのに、なんとわずか20分で柴又の観光終了、ひいては「葛飾区を制覇」してしまったのだ。一応他にも『寅さん記念館』や『柴又七福神』なんかがあるんだが、疲れていた我々の食指はぴくりとも動かなかった。
あくまでも個人的な感想なのだが、柴又という街は『寅さん』に頼りすぎている気がするのだ。次男くんが「無理してますね」と言った気持ちがとてもよくわかる。浅草ほどとは言わないが、映画『男はつらいよ』よりもずっとずっと歴史の古い街なのだ、せめて『男はつらいよ』以外のところでもうちょっとがんばってほしいという気がしてならない。


さて、我々は、帝釈天の裏側を抜けて歩くこと約2分、江戸川の川辺へとやってきた。
土手をゆっくり登ると、眼前には雲一つない青い空と、左右に果てしなく延びる江戸川の河川敷が広がる。有名な『矢切の渡し』もすぐそこに見える。

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そういえば、「雲一つない青い空と、左右に果てしなく延びる河川敷」という光景を、前日にくじで引き当てた『北区』で目にしていたのを思い出した。
荒川と江戸川。川は違えど、同じ河川敷で同じ光景である。
それなのに、前日あれだけいい気分だったのとは対照的に、なぜ今こんなにも黄昏れているのだろうか。

我々は土手に座り、風に吹かれてぼーっと遠くを見ながら、こんな会話を繰り広げた。

高倉「何で横浜に行こうっちゅーてるのに、柴又の土手で江戸川見てるんだろ?」
吉田「川の向こう、横浜どころか千葉だぞ!??」
次男「路線図でもあんな遠くに描いてあったしねぇ、横浜…」
たい「ヘタしたら、横浜まで移動する時間で、近いとこだったらくじ2回引けるんじゃないの?」
長男「うーん…」

ふと、横浜まで本当に行ったらどれぐらいかかるのか『乗換案内』を使って調べてみると、恐ろしい結果が出てきた。

たい「横浜まで、ここから1時間10分かかるらしいっすよ。柴又駅5時に出たら、横浜6時10分」
吉田「かかりすぎだろ!」
高倉「…ホント遠いな……」

移動時間が1時間10分というこの厳しい現実を目の当たりにして、みんなの「横浜に行こう」という気持ちが、しぼんでいく風船のようにだんだんと萎えていくのがわかった。

たい「そもそも、長男くんと次男くんはなんで横浜行きたいわけ?」
次男「いやー、おいしいものとか買って帰ろうかなーって…」
たい「おいしいものだったら、うまいこと近くの区引いたら、そこで何かしらん買えない?」
次男「まぁ…そりゃーね…そうだけど…」
たい「わかった。じゃあこうしよう。あれだけ遠くても横浜行くんだったら行こう。行かないんだったら、くじ2回引く。これでどうよ?」
次男「うーん……」
高倉「ここまで横浜から離れちゃったら、もうどこ行ったって一緒かもな…」
全員「う───ん………」


迷う一行。
横浜に行くか、くじを引いて従うか。


さんざん考え抜いた挙げ句、
やはりというかなんというか、結局、くじを引く事にした。
いくらなんだって、そろそろちょっとぐらいはくじ運がよくなってもいいだろうと。
今までがあれだけひどかったんだから、そろそろ移動の楽な区を引いてもいいだろうと。
そういう期待を一身に込めて、くじを引く事を決意したのである。

だが、我々は大事なことを忘れていた。
次にくじを引くのが、あの"悪魔の右手"を持つ、次男くんであることを───。


次男くんが茶封筒から取り出したくじの文字をみんなで確認すると、こんな文字が書いてある。



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高倉「せ……世田谷!!! 世田谷~~~!!!!!」

ショックのあまりか、すっとんきょうな声を上げながら、高倉仮面氏がゴロゴロと江戸川の土手を転がり落ちていった。


そりゃ確かに「どこ行ったって一緒」という話はした。
だからって、

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…何も、いちばん遠いところを引いてくることはないんじゃないだろうか。


このとき、ツアー終了まで我々に残された時間は約4時間半。
残り時間の少なさを告げるように、ゆっくりと陽は西へと傾いていった。


つづく。

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Comments

やぎりぃのぉ~~わたしぃ~~~~~♪

歌えてしまう自分が怖い。。www
相変わらずスゴイ!いろんな意味でです。。。w
はっきり言って・・・・・・参加したーい!
ドラえもんにお願いしたい。。。
夏に企画してください!
行きますからぁ~~~(*^m^*)

Posted by: neena | June 18, 2005 at 10:46 AM

>neenaさん
世の中には、怖いモノ知らずな人が多いなぁーと思う次第ですよ。
夏ですか… とりあえず、なんか考えてみるだけは考えてみます~。

Posted by: たい | June 18, 2005 at 12:11 PM

柴又も未経験なので、ここでチェーック!
「寅さんに頼りすぎ」φ(..)
そして『矢切の渡し』って江戸川だったんだ!

思った以上に読んで観光してます^^

追伸:
>渥美清と千昌夫の顔がダブって思い出される
同じく

Posted by: いとしゅん | June 21, 2005 at 01:17 PM

毎回続きを楽しみにしている読者の一人として、
ここのところ、土曜日発売の週刊誌を心待ちに
していたのですが、すっかり季節も移り変わり、
隔週刊誌(まさか、月刊誌?)にならないことを
祈りたいです・・

Posted by: すず | June 26, 2005 at 10:59 PM

>いとしゅん氏
僕も昔、『矢切の渡し』ってもっと遠くなのかなって思ってた記憶があるですよ。
東京都なんだ…って知ったのはいいけど、
行きづらいところにあるのは変わりがなかったりして。

>すずさん
すんません、楽しみにしていただいてるのに…
とりあえず、隔週まではいきませんでした(汗)
まぁ、これが終わらないと普通のブログに戻れないんで、もうちょいがんばります(笑)

Posted by: たい | June 27, 2005 at 07:25 AM

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